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ぶぶらばー王子 ② [ぶぶらばー王子]


 ママが夕ごはんのしたくでキッチンにいて、美久と一平はいつものように、ソファの横で二人で遊びながら、待っている時だった。
 一平はお気に入りの「うさぎのくに」という絵本をかじっていた。もちろん一平はそのお話もすきなのだけど、なんといっても、その絵本の角が一番好きだから、そこばかりかじっていた。あまりかじるものだから、絵本の角からは灰色のボール紙が見えてきている。おまけに、よだれでべとべとだ。
「ほら、読んであげるから」
 と、美久が言っているのに
「ぶぶぶぶー」と一平はくちびるをふるわせて、絵本を両手で持って、上にもちあげたりしていて、美久にわたそうとはしない。

うさぎのくに(C).png

 美久は、じれったくなって、もう自分は違う絵本を読むことにした。
 キッチンはソファのすぐ向こうで、ママのおしりがゆれている。
 いつものように、ママははな歌をふんふん歌っていた。
 美久は、おしっこがしたくなって、ママに声をかけた。
「ね、ママ、一平を見ててね。あたし、おトイレに行くからね」
 まったく、美久はいつでもてきぱきしている。そんな自分に満足していた。
「はいはーい」
 ママは、うかれた調子で、こっちをふりかえると、
「一平、おねえちゃんが来るまで、いい子で遊んでるのよ」
 口で言うけど、ちっとも見に来ない。
 美久は、腰に手をあてて、
(まったく、ママったら…)
 と、しぶい顔をした。
 そして、用をすませて、ソファの所にもどって来ると…、なんと、一平のすがたが消えていた。
「ね、ママ? 一平は?」
 ママは、手をやすめることもなく
「遊んでるよ」
 と、平気な顔をしている。
 美久は、ソファの下、横、かごの中をさがしてみたけど、ちっとも一平は見つからない。 一平が座っていたところには「うさぎのくに」がぽつんと置いてあるきり。
 美久は、その絵本をとり上げると、ねんのために、その下を見てみた。
 そして、ぱらりとめくれたそのページに、見覚えのある、水色と白のしましまのシャツを着た、一平が見えた。
「いた! 一平がいた!」
「ほらね」
「絵本の中に入っちゃった!」
 美久が言うのに、ママは、
「そりゃたいへんだ!」
 と、うかれていて、ちっとも本気にしていない。
 美久は絵本を持って、ママのところに行くと、スカートを引っぱって
「ねえ、見てみて」
 と、うったえた。
「美久! あぶないよ! 今コロッケ作ってるから、油のそばによったらだめよ。はねるから! あっちで一平と遊んでてね。おねがい」
 美久は半分なき顔になりながら、ママにうったえるのをあきらめて、ソファの横にもどると、本を振ってみた。
 でも、一平は本の中に入ったきり、落ちてこない。
「ああ、一平!」
 美久はソファに座ると、絵本を開いてみた。 最初のページ…、一平はうさぎのくにの雪の中に、ちょこんと座っていた。
 絵本はいつものように
『しずかなゆきの朝です』という言葉ではじまっている。
 今日はあたたかかったから、一平は半そでいちまいだ。 
「ああ、寒くないかしら」
 こんなことになるとわかっているんだったら、せめて長そでのシャツでも着せておけばよかったものを…。
 美久は心配になり、次のページをめくってみた。またまた、いつものように、ウサギのくにのおくさまがたが、三人、おつかいかごを下げて、出てきた。
 一平は、同じようにちょこんとすわって、ぽかんとしている。
 そして、お話は少し変わっていた。おくさまがたが、一平に気がついたのだ。
「あら、赤ちゃんよ。こんなところに」
「にんげんの赤ちゃんって、うわさに聞いていたけれど、ずいぶんと大きいのね」
「どこからきたのかしら」
 一平の方は、ウサギのおくさまがたのことなんか、ちっとも気にしていないようすだった。 
 美久は、先が気になって、つぎつぎにページをめくって、お話をたどっていった。
 一平は空を指さしていた。そして、おくさまがたは、みんなで、その指の先を見上げている。
「ああ、あそこ、あの空の穴から落ちてきたのね」
「雪といっしょに!」
 そして、三人のうさぎは気がついた。
「雪の王子かもしれない!」


一平雪 (C).png


 さて、もともとのお話はどうだったか、美久は思い出してみたけれど、頭の中はまっしろで、よく思い出せなかった。
「ぶぶぶぶー」
 一平のいつもの言葉が、お話になって書かれていた。
 そうそう、いつも一平は、あらぬ所を指さして、ついつい美久もその指先を見てしまうのだ。
「ぶわぶわぶわ」
 一平が言うと、おくさまがたは、声をそろえて
「ぶぶらばー王子!」
 とさけんだ。
 そして、美久はハタと気がついた。そうだ、いつもだったら、「ラビット王子」が出てくるところだ。このおくさまがたときたら、一平のことを知りもしないで、なんていいかげんなんだろう。
「おとなって…、とくにおくさまがたって、絵本の中でも同じなのね」
 出番を失ったラビット王子は、馬に乗って、通りかかっただけだった。一平が絵本の主人公になってしまったのだ。
 だけどこの先どうするのだろう。いつもだったら、ラビット王子が悪いフォックス大臣の
所にのりこんで、たいじするんだけど…。ラビット王子は剣を持っているからいいけれど…。一平ときたら、水色のしまのシャツ一枚きり。
 美久は、心配になり、もう一度ママにうったえてみた。
「ママ! ママ! たいへん! 一平がぶぶらばー王子だって! フォックス大臣にやられちゃうよ!」
「あら、一平が王子さまなんてステキじゃない、美久」
 やっぱりだめか…。ママは、コロッケの方から目をはなそうともせず、振り返りもしなかった。
 これは、もう、美久一人で一平のゆく末を見届けるしかない。美久はかくごを決めた。
 ラビット王子は、通りすがりに、王冠と剣を落として行き、おくさまがたは、それを一平に持ってきた。





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